監督:アッバス・キアロスタミ

監督:アッバス・キアロスタミ

「ライク・サムワン・イン・ラブ」の監督を務めたアッバス・キアロスタミは、イランの映画監督・脚本家です。映画の世界以外でも写真家、画家、詩人などとして活躍している人物なのですが、映画に関してはイランで彼に並ぶ人物はいないと言っても過言ではないほどで、イランの映画界を支える重要なひとりとなっています。「東京物語」の小津安二郎のファンで、彼は日本で映画を撮ることが20年前からの夢だったのだそうです。

プロフィール

1940年6月22日生まれ。イランの首都テヘランに生まれました。1958年にテヘラン大学芸術学部に入学し絵画の勉強をします。1960年にはコマーシャル・フィルムやポスターのグラフィックデザインを手掛けるなど画家としての活動を始めます。1968年に児童青少年知育協会に入り、映画製作部を設立します。そのころから徐々に絵画から映画へと興味を移し始め、1970年に「パンと裏通り」で映画監督デビューを果たし、以後は短編を中心にいくつかの映画を製作します。1987年には、素人の子供を主人公にした「友だちのうちはどこ?」を発表し、注目を集めました。その後、「そして人生は続く」「オリーブの林をぬけて」などイスラムの厳しい社会と自然を詩的な映像で綴った作品を次々に発表し、国際的な評価を固めました。これらの作品は「友だちのうちはどこ?」と合せて“ジグザグ道3部作”と呼ばれています。1997年には、人生に絶望した男が自分の自殺を助けてくれる人を探す過程で、生きる意味を見出していく姿を描いたヒューマンドラマ「桜桃の味」にて、カンヌ国際映画祭の作品賞に当たるパルム・ドールを受賞しました。さらにその二年後の1999年には、イラン北部の山村で、ある儀式を取材しにやってきたテレビディレクターが体験する奇妙な日々を描いた「風が吹くまま」でヴェネツィア国際映画祭・審査員賞を受賞しています。近年は「10話」「ABCアフリカ」など、デジタルカメラの特性を最大限に活かした作品づくりを行っています。

受賞歴

  • 1996年 レジオンドヌール勲章
  • 1997年 ユネスコ フェリーニ・メダル
  • 1997年 カンヌ国際映画祭 パルム・ドール「桜桃の味」
  • 1999年 ヴェネツィア国際映画祭 グランド審査員賞「風が吹くまま」
  • 1999年 ヴェネツィア国際映画祭 国際映画批評家連盟賞「風が吹くまま」
  • 2000年 サンフランシスコ国際映画祭 黒澤明賞
  • 2004年 高松宮殿下世界文化賞
  • 2005年 ロカルノ国際映画祭 名誉豹賞
  • 2008年 ジャムシードの杯賞

作風

アッバス・キアロスタミの撮る映画は、素人俳優ばかりを起用することが一つの特徴と言えます。有名無名に関わらず、出演する俳優はオーディションで選ぶのが通例となっていて、「ライク・サムワン・イン・ラブ」ではそれまでエキストラや端役しかやってこなかった奥野匡という人材を発掘しました。また、俳優には脚本を事前に渡さないのも大きな特徴です。翌日に演じる部分の脚本しか渡してもらえないため、俳優たちは自分の役柄がどういう結末を辿るのかが分からないのだそうです。また、気が遠くなるほどのロングショットもお得意の技の一つで、「オリーブ林をぬけて」のラストシーンでは分単位でロングショットを用いて話題となりました。これはショットの移り変わりの速すぎる西欧的視点への反感が込められているのだそうです。

主な監督作品

1970年「パンと裏通り」
キアロスタミの初監督映画です。10分の短編で、小さな男の子が一塊のパンを抱えて家路に就くと腹を空かせた犬に遭遇してしまい、彼と彼のパンに危険が及ぶという物語になっています。
1974年「トラベラー」
イランの小さな町の困り者で不道徳な10歳の少年が、サッカーイラン代表の試合を見たいがために、友人や隣人を騙していくという物語です。
1987年「友だちのうちはどこ?」
間違えて友人のノートを持って帰ってきてしまった少年が、ノートを届けるために友達の家を探して歩き回るというストーリー。主演のババク・アハマッドプールはこの映画が初出演だったそうです。
1989年「ホームワーク」
子供たちがなぜ宿題をしないのかというテーマで、イランの教育制度とそれによる個性の喪失を表現したドキュメンタリーです。
1990年「クローズ・アップ」
自分を映画監督だと偽ってある家族を騙したという実際の詐欺事件を元に、事件の当事者を使ってそれを再現したセミ・ドキュメンタリー映画です。
1992年「そして人生はつづく」
“ジグザグ道3部作”の2作目。イラン北部を襲った大地震の後、「友だちのうちはどこ?」のロケ地コケールを訪れてその出演者たちを探すというストーリーです。
1994年「オリーブの林をぬけて」
映画作りの最中にひとりの青年が相手役の女の子に恋をし、告白しようと試みるというラブストーリーです。“ジグザグ道3部作”の3作目で、これも実際に撮影中に起きたことを元にしています。
1997年「桜桃の味」
人生に絶望し自殺を決意した男が、ひとりの老人に出会ったことで生きることの本当を意味を知るという物語です。カンヌ国際映画祭にてパルム・ドールを受賞しました。
1999年「風が吹くまま」
珍しい儀式を行う葬式の取材のため、イラン北部の山村にやってきたテレビディレクターが、奇妙な日々を体験するというストーリーです。
2001年「ABCアフリカ」
キアロスタミ監督が国連の依頼で製作したドキュメンタリーです。悲劇の中でも力強く生きるアフリカの子供たちや母親の姿を描いています。
2002年「10話」
疾走する車の中で繰り広げられる、女性ドライバーと同乗者の会話だけで綴られるヒューマンドラマです。キアロスタミ初の女性視点の映画です。
2003年「5 five ~小津安二郎に捧げる~」
小津安二郎を敬愛するキアロスタミが、小津作品への尊敬と愛を独自のスタイルでくみ上げた作品。わずが5カットしかないことからこのタイトルが付けられました。
2005年「明日へのチケット」
ローマへ向かう特急列車に乗り合わせた人々の交流をケン・ローチ、エルマンノ・オルミ、キアロスタミの3人が描いたオムニバス作品です。
2007年「それぞれのシネマ」
カンヌ国際映画祭の60回目を記念して製作されたオムニバス作品。世界の名匠たちが「あなたにとって映画館とは」をテーマに3分間の短編映画を撮影しました。
2010年「トスカーナの贋作」
ひょんなことから偽の夫婦を演じることになった男女の虚実混交の恋愛模様を描いた作品。主演のジュリエット・ビノシュはこの作品でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞しました。
2012年「ライク・サムワン・イン・ラブ」
キアロスタミが日本を舞台に日本人スタッフとキャストで製作した映画です。カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にも出品され、大きな話題を呼びました。